亜美は自分の背後に現れた人物を
言葉を忘れて見つめていた。


「手伝おうか?」


その人物は笑顔で言うと
床に散らばるペンを拾い始めた。


若い男。


亜美はその背の高い男に
見覚えがあった。


当り前だ。


その男は
亜美たち新入社員の教育係として


亜美の入社以来
時間を共にしていたからだ。


亜美の顔がだんだんと
赤く染まっていく。


仕事の話しかしたことが無い。


もちろんプライベートなんて
知っているわけもない。


でも亜美はこの男の名前だけは
知っていた。


「渡辺さん。ありがとうございます」


そう言って頭を下げる亜美。