とっぷりと日の暮れた
夜の街。


ネオンサイン輝く派手な若者の街から
少し離れた場所にある


上品な店が立ち並ぶ
静かな界隈。


スーツ姿の男たちが
店ののれんをくぐる姿が見える。


和服を着たおかみさんが
客を出迎える中


亜美の同僚の美里は
静かな街を歩いていた。


大学を出たばっかりで

まだ若い美里は
こういうところにはあまり来たことが無い。


少し緊張している様子。


やがて亜美は一軒の小料理屋の前で立ち止まった。


出迎えに来たおかみさんが
笑顔で美里を店内に招き入れる。


檜の一枚板のカウンター。


古伊万里の大皿に
ブリの煮つけが盛られている。


カウンターの奥に見えるワインセラーに並ぶ
世界中から集められたワインと

日本の地酒。


「お連れ様はまだみたいですねぇ。
ゆっくりしてお待ちくださいね」


おかみさんにそう言われて
笑顔で答える美里。


目の前に出されたワインのグラスを
ほんの少し口をつけた瞬間


美里の背後から声が聞こえた。


「遅れてごめん美里。仕事がなかなか片付かなくて……」


「いえ。私も今。着いたとこだから」

そう言って振り向くと
そこには長身の男が立っていた。