話しかける口実がないからといって、ついに時候の挨拶でも持ち出したのだろうか。
津山くんの意図が分からずに、「そうだね」と訝しみながら返事をする。
「十二月はクリスマスで、一月は正月で……色々あるけど、二月って何もないよね」
「いや、節分があるよ?」
「もう終わったじゃん」
そうじゃない、とでも言いたげに眉根を寄せる彼。その時、脳内に一つの答えが閃く。
……ああ、なるほど。バレンタインか。
「そうだね。二月のイベントといえば針供養かな」
「……え? 針、え?」
「あと建国記念日があるし、今年は閏年だから……」
「ちょ、待って。ストップ」
津山くんが慌てたように私の言葉を遮った。それから、む、と口を尖らせる。
「分かってるくせに。西本さんの意地悪」
まずい、油断した。直視してしまった。
津山くんの困り顔。私はこれに弱いって、前々から自覚して対策してきていたのに。
「……回りくどいのは津山くんじゃん」
「じゃあ直球に言っていい?」
なに、と身構えていると、彼は私の顔を覗き込んで、それから上目遣いで乞うてくる。
「……チョコ、欲しいなあ、なんて……」



