ピーク・エンド・ラバーズ




そこからの津山くんは、本当にタチが悪かった。

教室内で堂々と話しかけてくることは一切なかったけれど、体育でちょっとすれ違った時や私がたまたま一人になった時に、あくまで「用事がある体で」話しかけてくる。
周囲の視線もさほど気にならない場所で話すことが多いし、見られたところで言い訳が通用する場面がほとんどだから、拒む理由も見当たらない。

それに加えて、彼はいつも控えめな態度で私の顔色を窺うように振舞うから、怒るのも気が引けるし、何だか可哀想だと思ってしまう。
灯の言っていた「待てをくらった犬」という表現がこれほどまでに的確なこともあるのか、と感じたくらいだ。


「あ、西本さん」


二月も初旬の昼休み。その日はお弁当を忘れてきてしまって、購買で仕方なくコロッケパンを買った。
教室へ戻る途中で、津山くんが私の姿を目視したらしく、声を掛けてくる。


「珍しいね。お弁当忘れたの?」

「うん、まあ」


ただすれ違い様に会話を投げてきただけかと思ったので、適当に頷いて彼の横を通り過ぎる――と。


「待って」

「え、な……なに」


くん、とセーターの裾を引っ張られて、動揺しながらも振り返った。どうやら「用事」があったらしい。


「もう二月だね」