ピーク・エンド・ラバーズ



いつになく低い声が彼の口から漏れた。
剣呑な顔つきになった津山くんに、意図せず背筋が伸びる。


「だ、……だから、今までみたいに普通にしよ。別に前は学校でも大して話さなかったじゃん」

「普通って? 前と今では違うよ。俺ら、前より仲良くなったよね?」

「普通は普通! そこまで仲良くない!」


全ての雑念を振り払って、必死に断言した。

私が言い放った途端、津山くんが黙り込む。落胆と悲哀の混じった瞳がこちらを見つめてくるけれど、これでいいんだ、と私は固く唇を噛んだ。
そんな顔をしたって無駄。もう逸らさないし負けない。同情なんかしない。


「……西本さん、俺のこと、嫌い?」

「嫌いじゃないよ。普通」

「もう話しかけちゃいけないの?」

「どっちでもいい。用があるなら駄目とは言わないけど」


意地になっている。それは分かっていても、後には引けなかった。

津山岬を嫌いになることも、諦めようと思う。きっと一番心を乱さずに済むのは、好きでも嫌いでもなく、無関心に、無感動に接することだ。


「分かった」


意外にもすんなりと了承した彼が、でも、と最後にとんでもない爆弾を仕込んでいった。


「俺、西本さんに嫌われてるわけではないんだもんね?」