ピーク・エンド・ラバーズ



心の準備ができていなかったせいで、遠慮会釈のない声が漏れてしまう。
私の低い威嚇が耳に入ったのか、津山くんは慌てたように両手を振って言い募った。


「や、違くて。いや違くないんだけど! その、綺麗な黒髪が大和撫子? っていうの? なでしこジャパン、みたいな?」

「…………何言ってるの?」

「ごめん。俺もよく分かんないわ。忘れて」


自身のこめかみを沈痛に押さえて項垂れる彼に、訝しみながらも一度会話を打ち切る。
本当に、今日の津山くんはどうしたのだろう。めちゃくちゃつまらないギャグを言うくらいなら通常運転だけど。

そこからしばらく無言のまま歩いて、商店街に着いた。
店先で立ち話に花を咲かせるおばさんたちや、威勢のいい店主が客を呼ぶ掛け声。一度も来たことがない癖に、懐かしいという感想が浮かぶ。

でも、こういうところは結構好きだ。素朴で温かい匂いがする。

ここに来るまであまり喋らなかったこともあってか、心は静かで、凪いだ水面のように落ち着いていた。


「どこ行くの?」


私の数歩前を進む背中にそう投げかければ、津山くんは振り返って緩やかに立ち止まる。


「あー……っと、ここ」