ピーク・エンド・ラバーズ



へらりと笑って彼が言う。
意味が分からない。絶対に嘘だ。そんなことのために朝早くからバス停で待ちぼうけていたとは、到底思えない。


「津山くんならそんな必要ないんじゃない?」


努めて冷静にあしらって、視線を逸らした。

修学旅行で見た津山くんは、もういない。目の前で薄い笑顔を張り付けている彼は、もういつもの津山くんだ。
本来の彼はきっとこっちで、でも私はこっちの彼とは仲良くしたくない。ろくでもないのだ。女の子をとっかえひっかえ、そんな人に心臓の一部分さえもあげる気にはならなかった。


「うーん、まあその必要性が出てきちゃったんだよねー……」


苦笑じみた声で、津山くんは語尾を弱める。
彼女を作る気になった、ということだろうか。まあその方が健全でいいと思う。


「ねえ羊ちゃん、キスしていい?」


そんなとんでもない発言が聞こえてきて、私たちは会話を打ち切った。振り返れば案の定、羊と狼谷くんが人目も憚らずにいちゃついている。


「えっ⁉ だめだよみんな見てるよ!」

「だってもう三日もしてないよ?」


胸やけがしそう。意図せず顔をしかめたのは、津山くんも同じだったらしく。


「……何あのバカップル。俺平和主義者なんだけど一発入れてきていい?」

「許可する。但し狼谷くんの鳩尾で頼んだ」


彼と謎の団結が生まれたところで、無事にこの学校の治安は守られた。