ファーストキスはレモンの味って言ったやつ誰だ、出てこい。
そんな八つ当たりをしたくなるほどには、緊張で頭が真っ白だった。

中学二年生の夏、俺は初めての彼女と初めてのキスをした。

テニス部の可愛い一つ上の先輩。走るたびにポニーテールがゆらゆら揺れて、その毛先を馬鹿みたいに目で追いかけていた。
茶目っ気があって、笑った顔が輝いていて、天真爛漫。先輩のことを狙っている男子は多かったけれど、当たって砕けろ精神で夏祭りに誘ったらまさかのOKで、浴衣姿の先輩が可愛すぎて告白したらまさかのOKで、きっとここで一生分の運は使い果たした。

レモンの味なんて、多分、いや絶対にするわけがないのだ。正直キスに味とかないし、もしあったとしてもそんなことを気にしている余裕すらない。

高嶺の花だった先輩を射止めた俺は、校内で一躍有名人になった。


「おい岬ぃ、聞いたぞ。カンナ先輩に告るとか、お前まじでやべーな」

「でも良かったじゃん、OKもらえて。マサキ先輩がカンナ先輩のこと好きとか言ってたけどさー、あんな王子様とくっついたって面白くねえじゃん!」

「そーそー。カンナ先輩も、岬みたいな大人しいやつの方が好きだったってこと」