こちら側に向いていたはずの力が、一瞬にして消えた。代わりに彼の方へ再び引き寄せられて、その胸になだれ込む。


「は……なに、」


咄嗟に顔を上げて問いただそうとした刹那、彼の瞳に呑み込まれた。
重なった唇の温度に驚いて、離そうとした手を咎めるようにきつく握られる。


「ん、……岬っ、なに」

「なにって、キス」

「そ……! そんなの、分かってる!」


私が聞いてるのはそういうことじゃなくて。
反駁する前に、もう一度唇が重なった。


「……ごめん、ちょっと、色々我慢できなくて」


掠れた声で弁明した彼が、ぐっと体を起こす。ようやく手が解放されたと思ったら、視界が反転した。


「キスだけ。キスだけにするから」

「ばか! 嘘つき! さっきまで怖がってたくせに……!」

「興奮の方が勝った。殴っていいよ」


それは本当に殴るけど!? 私の心配返してほしいんだけど!?
押し倒してきた彼の胸板をぐいぐいと押し返すも、唇は容易く奪われてしまう。


「んん、や……ばかっ」

「加夏ちゃんの『ばか』、めちゃくちゃ可愛い」

「意味、分かんない……!」