今度は私が「何で」と問う番だった。彼から放たれた言葉がにわかに信じ難く、数秒固まる。
津山くんは私の両手首を掴むと、そのままぐっと体重をかけてきた。
「やっと……やっと加夏ちゃんと、好き同士になったのに……」
ぽたぽたと彼の涙が落ちていく。
体が重たい。手首が痛い。だけれど、津山くんの手はずっと震えていた。まるで――これ以上、力を加えてはいけない。そう我慢しているかのように。
「邪魔されてたまるか……俺はずっと、あいつよりずっと、加夏ちゃんのこと」
顔が迫る。呼吸が近い。
「加夏ちゃんのこと、ずっと、誰よりも好きだよ」
それが彼の、最終的に行き着いた結論だった。
ゼロ距離になった刹那、唇が重なる。彼の息が、手が、心臓が、ずっと怯えるように震えている。
「……何で、」
僅かに離した唇で、彼が嘆く。
「何で、逃げないの……」
キスの寸前、緩まった手首の拘束。浮いた体重。
ああ、やっぱりって、思ってしまったよ。津山岬には、人を傷つけることなんてできっこないんだから。
こんな時にまで遠慮しなくていい。私に選択を与えなくていい。もう君は、私に対して下手に回らなくたって、いいんだよ。



