私を見下ろし、彼が問うた。面食らったものの、即座に首を横に振る。


「好きじゃない」

「じゃあ何で? 何か話してたよね。知り合いじゃないの?」


普段の柔和な彼を見慣れているがために、無表情で淡々と詰められるのが怖い。
津山くんはなおも追及の手を緩めることはなかった。


「どうして隠すの?」


隠していたわけじゃない。隠したかったわけじゃない。
ただ純粋に、もう思い出したくないだけだった。苦い記憶を切り捨てたかった。


「……だって、」


瞼を閉じる。

嘘で塗り固められた告白は、私を縛った。たった悪ふざけ、されど悪ふざけ。津山くんからの気持ちをなかなか信じ切ることができなかったのも、きっと、その呪縛のせいだ。


「だって、怖かったの……」


本当に好き? 差し出されたものを受け取って、その後は本当に大事にしてくれる?
常に半信半疑。そのうち自分の気持ちを明確にするのも怖くなって、私は避けた。

ようやく過去の呪縛を解いて、人並みに誰かを好きになれると思ったのに。
津山くんには知られたくなかった。これまでも全然上手じゃなかったけれど、圧倒的に下手くそだった頃の自分を、知って欲しくなかった。

余計な心配事で私たちの仲が振り回されないように。そう願うくらいには、好きなんだよ。本当だよ。


「何してるの?」