「入って」


そう促されて、背中を押されるがまま中に踏み入る。

意外にも――というべきか、辿り着いたのは津山くんの家だった。
駅を降りて歩いている途中から薄々気が付いたけれど、一体わざわざ帰ってきてどうするのだろう。ゆっくり話し合い、となると、逃げ場はない。

そろそろ覚悟を決めるべきだろうか。浅く息を吐いて、そう思った時。

背後で鍵を閉める音と共に、金属音がした。
振り返れば、ドアチェーンがしっかりとかけられている。


「……どうしたの?」


念入りに施錠し終わった津山くんが、ゆっくりとこちらを見やった。

どうしたの。それは、私が聞きたい。
前に私が来た時はドアチェーンなんて使っていなかったはずだ。どことなく不気味さを覚えて、息を呑む。


「あの、……どうして、そんなに鍵」

「加夏ちゃんとの時間、邪魔されたくないし。それより早く上がって」


物々しい口調に気圧される。慌てて靴を脱いだ。

部屋の真ん中に恐る恐る腰を下ろして、津山くんを見上げる。


「ねえ。加夏ちゃん、あの人のこと好きなの?」