ピーク・エンド・ラバーズ




目の前にはゾンビ。そして隣には私の腕を掴んで離さない津山くん。
カオスってこういうことか、と場違いな感想が浮かぶ。いやそんなことよりも。


「津山くん、大丈夫だから。そんなに見てると逆に狙われるよ」


修学旅行も三日目。朝から大阪のテーマパークを回っていたけれど、あっという間に夕方になってしまった。
ちょうどハロウィンのイベントで、この時間帯になるとパーク内をゾンビがうろつく仕様になっている。津山くんはどうやらホラー耐性がないようだ。


「下向いてた方がいいよ。あっち行こう」


もともとみんなで絶叫系かつホラー系のアトラクションに乗るところだったのだけれど、津山くんが辞退。彼だけが乗らないとなると、他のみんなが無理やりにでも連れて行くかもしれないから、私もそれとなく離脱した。

みんなを待つ間、時間を潰そうと意見が一致したのはいいとして、外には津山くんの苦手なゾンビが発生している。
確か子供向けのエリアは安全地帯だったよな、と思い出して、私は彼の手を引いた。


「津山くん」


言われた通り、忠実に俯き続けている彼が何だか可笑しい。余程怖いのか、私の手を離さまいと強く握ったまま。いま彼と私はゼロ距離だ。


「おーい、津山くん。もう顔上げて大丈夫だよ」

「あ……」

「うわ、顔色悪いね。何か飲む?」