ピーク・エンド・ラバーズ



今日は強請られるよりも先に、名前を呼んでみる。
津山くんは分かりやすくうろたえて、視線を左右に振った。頬が赤い。


「……なんか、今日の加夏ちゃん、変」

「変じゃないよ」

「変だって。いつもなら、絶対こんなことしないのに……」


自覚はあった。だけれど、その上で私はやっていた。

思い出してしまった記憶に蓋をしたい。あれから私は恋に随分と臆病になって、そのせいで色々と遠回りをした。ようやく津山くんと誠実に向き合おうと決意したのに、今更昔のことなんて出てきて欲しくないのだ。

今はただ、目の前にいる彼のことを、ちゃんと好きでいる自分でいたかった。


「私がこうなったら、嫌?」


ずるい質問をしてみる。返ってくる答えなんて分かりきっていて、津山くんが照れたように、困ったようにするのも分かっていて。


「……嫌じゃない……可愛すぎて、しんどい」


その火照った頬に心臓が疼くのも、心地良いと思える程度には、私は彼が好きだ。
そうだよ。私は津山くんが好き。恋って本来、こういうものだ。甘くてふわふわしていて、幸せなもの。


『俺、西本のことが好きです』


だから、あんな苦いものは、もういらない。


「津山くん」


忘れさせてよ、なんて、傲慢だけれど。少なくとも、この恋に溺れてみたいとは、思っていた。


「デートしよ」