ピーク・エンド・ラバーズ



うん、そっか。やっぱりそうなんだ。百戦錬磨の彼が言うなら間違いない。
良かったあ、と思わずため息をつく。


「私、『羊がどうしたいかじゃない?』って偉そうに言っちゃったんだけど、正解だったみたいで良かった」


そういうこと、だよね? 好きだなあって、したいなあって思ったら、期間にとらわれずに行動あるのみってことでいいんだよね。
そうだ、きっとそう。自分の中で考えを落とし込むように何度か頷いて、津山くんを見上げた。


「ありがとう。引き止めてごめんね!」


不思議と心は軽かった。懸念材料もなくなり、あとは楽しい夜を過ごすだけだと思って、気が急いていたのかもしれない。
おやすみ、と彼に告げて、踵を返す。――と、


「あの、さ」


津山くんが、私の腕を掴んだ。振り返った先にあった彼の顔が、思ったよりも近くてびっくりする。


「……他の男には、そういうこと聞かない方がいいよ」


やけに真剣な顔で津山くんが言ってくるから、さっき彼が忠告してくれた通り、私には危機感が足りないということなのだろう。二度も言わなくても大丈夫なのに。それとも、さっきはふざけていたから、今度は真面目に注意しておく気にでもなったのだろうか。


「あはは。そうだね、気を付ける」


張り詰めた空気を中和するようにわざとらしく笑って、彼の手からすり抜ける。
部屋に戻ってからも、掴まれていた感覚が残っているようで、そわそわと落ち着かなかった。