嬉しい、とか、私も好き、とか言えれば良かったのに。
いざとなると気の利いた言葉は一切出てこなくて、ひたすらに頷く。


「……ほんと?」


珍しく目を見開いた相良くんは、もう一度頷いた私を見て、ようやくほっとしたように頬を緩ませた。


「ありがとう。嬉しい」


これからよろしく、と彼が言う。それにまた頷く。

間がもたなくなって、それを向こうも感じたのか、「じゃあ、また明日」と相良くんは教室を後にした。
私は一人、また窓の外を眺めて、でも一分もしないうちに荷物をまとめて、教室を出る。

どきどきしていた。夢心地だった。
だからわざといつも通りにしていることで、たったいま起こったことが夢じゃないと実感しようとしていた。

けれど次の日の朝、クラスで一番可愛い女子が、泣いていた。


「ほんっとにサイテー! まじであり得ないんですけど!」

「謝れよ、男子」


華奢な肩を震わせるその子を庇うように、野次が飛ぶ。

一体何事か、と眉をひそめていると、おはようもそこそこに、友達が駆け寄ってきた。


「ねえ加夏、昨日大丈夫だった!?」

「え?」

「相良に呼び出されてたじゃん! やっぱ告白された?」