――もう絶対、恋なんてするもんか。
安っぽい台詞だけれど、その時の私は本気で思っていた。

中学二年になる前の、放課後の教室。
普段はすぐに部活へ行くか帰るかの二択のくせに、その日は窓の外を眺めてみたりして、ちょっと浮かれていた。


『話があるから、教室で待ってて』


当時同じクラスだった相良くんにそんなことを言われて、友達にも揶揄われて。
告白じゃん、と脇をつつかれたけれど、必死に冷静なふりをして、私は「聞いてみないと分からない」と答えた。

相良くんはクラスの男子の中で一番落ち着きがある。すぐに馬鹿にしたり下品なことを叫ぶ男子とは違って、彼はとても爽やかだ。
そしてそんな彼に、ひっそりと好意を抱いていた。

自分から告白する勇気もなければ、付き合いたいというわけでもなく、ただ漠然と「いい人だな」という感覚に近かったのかもしれない。
わたあめみたいに不確かで、でも甘さはわたあめの十分の一くらい。それが私の初恋だった。


「ごめん。お待たせ」


温厚な声と静かな足音が、教室に入ってくる。
余裕があると思われたかったのか、強張った表情筋を取り繕う時間を稼ごうとしたのか。緩慢に振り返って、私は視線を上げた。