さっきから芽依が話題に挙げているのが、キスなんて可愛いものではないことくらい、分かっていた。
……まだキスもしてないって言ったら、どうなるんだろう。
付き合うって難しいな、と常々感じる。
ただなんとなく周りや自分のことを踏まえて思うのは、順番を間違えずに進んでいくこと、清くいることが、全ての解決になり得るわけではないということだ。
だから「普通」もないし、「正解」もない。
それが、ようやく掴めてきた、私なりの誠意である。
そこまで考えた時、なんだか不意に、会いたいな、と思った。
会いたい、津山くんに。昨日の夜、顔を見たばかりだけれど。
「なんか加夏、顔赤くない?」
「…………何でもない」
柄にもないことを考えてしまって、頭を抱えた。
そんな私の様子を訝しむように、芽依が「大丈夫?」と声を低める。
「あー、うん。ごめん、大丈……」
やや視線を右方に投げた時だった。
ミルクティーのマッシュヘア。黒いスニーカーにネイビーのリュック。食堂の向こうを通りすがっていく人影に、見覚えのあるそれを見つけて思わず立ち上がる。
「なに、加夏。どしたん?」



