ピーク・エンド・ラバーズ



今日も今日とて、浮かれた返事。


『俺のこと、名前で呼んで欲しい』


その願いは、あの場限りのものじゃなかった。津山くんは関係性の変化を望んでいて、毎日必ず一回、私にその特別な三音を強請る。


「もっかい、呼んで欲しい……な」

「えっ」


更に一歩踏み込んだ要望に、声を上げてしまった。
そんなことを言われたのは、一番最初にお願いされた時以来だ。私のキャパシティが少ないのを理解して、今までは一回で留まってくれていたのに。


「だめ?」

「そ、それ、ずるい」

「ええ……何で」


津山くんの「だめ?」に弱いのは、自分でもよくよく分かっていた。私より可愛いのがむかつくし、きっと私が本気で嫌がったらあっさり引き下がるんだろうな、というのが見て取れるから、何となく罪悪感がわく。


「み、岬がそうやって言う時、いっつも……負けた気分になる」


名前を単体で呼ぶのは、結構ハードルが高い。
会話に混ぜ込んで及第点で許してもらおうと思ったら、ふと見やった彼の顔がみるみるうちに赤く染まった。


「……加夏ちゃんの方が、ずるくない?」

「は?」

「だっていま、呼んでくれない流れだったじゃん……不意打ちはずるいっしょ」