背後から、唐突に耳元で囁かれた言葉。
冗談抜きに一瞬心臓が止まったかと思った。下手に大声で驚かされるよりもタチが悪い。
振り返ると同時に、どこか翳りのある瞳が私を捉える。想像からかけ離れた彼の無表情が、やけに不穏だった。
「……あ、津山く、」
「加夏ちゃん。今の人、知り合い?」
彼が私の言葉を遮るなんて珍しい。
詰め寄られて、一歩後ろに下がりながら頷く。
「……普通に、バイトの人」
「ほんと?」
「うん」
津山くんは私の答えに満足はしていないようだ。じ、と瞳の奥を覗き込むように見つめてくる。
「腕、掴まれてなかった?」
「見てたの?」
「加夏ちゃんの声が聞こえたから」
それならそうと、最初から言ってくれれば良かったのに。何だか隠し事をしてしまったようで勝手に気まずくなってしまう。
「私がちょっと、階段踏み外しそうになって。支えてくれただけ」
説明するのも面倒だし、わざわざ彼に話すようなことでもない。
無難な回答を寄越した私に、津山くんが「そっか」と呟いたから、ひとまず安心した。
「今日は忙しかった?」
「うーん、そこまで。普通かな」



