階段脇で壁に寄りかかっていた彼が、私の姿を目視して口を開く。
「あの、……一緒に帰らない? 途中まででもいいし……」
沈黙を誤魔化すように動く、骨ばった手。当時と全く変わっていない、固そうな黒髪。唇の少し下、顎にあるほくろも。
やっぱり、どうしたって彼は――相良くんは、私の初恋の人なのだ、と認めざるを得なかった。
「ごめん」
それだけ告げた私に、相良くんが視線を左右に振る。
「……西本。俺のこと、覚えてる?」
あまりに私が他人行儀だから、不安になったのだろうか。
そんな質問を投げかけられて、――投げかけられる前から、答えは決まっていた。
「さあ。何のこと?」
彼の目を見据えてはっきりと返せば、再び沈黙が訪れる。
意地になっているのか何なのか。お互い目は逸らさないまま、真正面から向き合っていた。
心の中で、十秒は数えたかもしれない。
ちょうどそのとき私のスマホが震えて、メッセージを受け取ったらしかった。
「じゃあ、お疲れ様」
送り主は開かずとも分かる。返信するより、いま彼とのやり取りを切り上げて下に降りた方が手っ取り早いな、と判断して、私は足を動かした。
「西本、」



