ピーク・エンド・ラバーズ



ず、と鼻を啜った彼が、そろそろと顔を上げる。

唯一自由だった右手で自身の服のポケットを漁り、ティッシュを取り出した。


「泣きすぎ。ちゃんと拭きな」

「ん、」

「今日は泊まるけど、明日の夜には帰るからね。学校もあるし」

「うん……」


私の上で泣きじゃくる津山くんの鼻を拭ってやる。


「ま、って、汚いから、自分で――あ、加夏ちゃんの服汚れて……ごめん、」

「いいよ、洗濯するから」

「ん……加夏ちゃん、」

「なに?」


少々乱雑だったけれど、粗方いいだろうか。拭い終えて一息つくと、津山くんが再び耳元に口を寄せてくるから驚いた。


「好き」

「えっ、な……」


ここには二人しかいないのに、内緒話をするかのようなトーンだった。
彼にとってその二音はとても重々しくて大事なものなのだと、つい先程言われたばかりだ。それを知ってから聞くと、とてつもなくウエイトのある言葉に思えてしまう。

すぐに顔を離した津山くんの頬はやっぱり赤くて、なんなら耳まで茹でダコだった。


「……そんなになるくらいなら、頑張って言わなくてもいいのに」

「だ、だって、……言いたかったから」