多分、今は正気じゃない。声だけで止めようにも、効力は足りなかった。
「加夏ちゃん……」
咄嗟に目を瞑ったけれど、津山くんは私の肩に顔を埋めただけだった。じっとりと彼の涙が染み込んでいくのが分かる。
私の手首を掴む手に一層力がこもって、甘えるような声が耳元で聞こえた。
「今日は帰んないで。一緒にいたい……」
「え、……でも、」
「加夏ちゃんがいないと不安で……何も手につかない」
ただの我儘と言い切るには、不安要素が多すぎる。だって実際、彼は今の今までそうだったのだから。
「加夏ちゃんが作ってくれたご飯、食べたい……」
「そ、それは……いいけど、明後日までしか、いられないよ」
「そんなにいてくれるの?」
「え、あ、いや……明日まででいいなら、帰るけど」
「やだ。ずっといて」
「だから、ずっとは無理だって……」
明日は休みだからいいとして、月曜日からはまた普通に学校だ。一泊ならまだしも、さすがに二泊は親に渋い顔をされかねない。
「津山くん、あの……退いてくれる? ていうか、足大丈夫なの」
「退いたら帰っちゃう?」
「帰んないから。ほら、泣かないの」



