目の前にいるのは、本当に、津山くんなんだろうか。
漠然とした恐怖が体を支配している。じりじりと数歩後ずさり、私は力なく首を振った。
「津山く……あの、落ち着いて」
「俺、別れたくない……別れるなんて言わないで。嫌いにならないで……」
「ま、待って、ほんとに、」
彼の頬は涙ですっかり濡れている。
更に一歩引こうとした私の足首を、津山くんの手が掴んだ。
「俺を捨てないで」
「な――」
なんてことを言うのだろう。捨てるだなんて、そんな言い方をしないで欲しい。
しかし抗議もままならなかった。彼の言葉に、空気にひたすら圧倒される。
体はとっくに恐怖で思うように動かなくて、津山くんは私の足に両腕を回すと、ぎゅう、ときつく抱き着いた。
「加夏ちゃん……加夏ちゃん、加夏ちゃん……お願い、行かないで」
つと彼を見下ろし、今の状況に眩暈すらする。
恐る恐る屈んで、彼の腕に手を伸ばした。とりあえず拘束を解いてもらおうと口を開きかけた時、ぐっと手首を掴まれてバランスを崩す。
「痛……」
私まで床に座り込んでしまい、津山くんと視線の高さが同じになった。なおさら威圧感が増して、呼吸もしづらい。
「津山く――」



