後ろからの叫び声に驚いて、それでも私は早足で廊下を進んだ。
荒々しい息遣いと、追い縋ってくる足音。逃げなきゃ。帰らなきゃ。私はまだ、彼に向き合うには覚悟が足りていない。
「待って――お願い、加夏ちゃん、待って!」
切々とした声が止んだと同時に、背後で大きな物音がした。
顔だけ振り返ると、津山くんが廊下に倒れている。それはそうだ、さっきまであんなにふらふらだったのに、突然立ち上がって走ったらそうなる。
随分派手に転んだようだけれど、怪我はないだろうか。打ち所が悪くて骨を折ったとか、そうなるとこのままにしておくのは危ないんじゃ――。
純粋な心配が頭をよぎり、足が止まる。
「加夏ちゃん……行かないで……」
顔を上げた津山くんが、呻くように懇願してくる。下から掬い上げるように目が合って、体が強張った。
「お願い……ごめん、全部俺が悪いから……さっきの全部嘘、あんなこと思ってない、来てくれただけで嬉しい……」
彼の顔が苦しそうに歪む。目がみるみる赤くなって、五秒も経たないうちに潤み始めた。
足でも痛めたのか、起き上がろうとして断念した彼は、そのまま腕を使って床を這い、こちらに近付いてくる。
「加夏ちゃん、教えて……俺の何がだめ? もう俺のこと嫌いになった? 教えて、全部ちゃんと直すから……」



