「そ、それじゃ行ってくる!」
「傘」
 
オレは慌ただしく玄関を出て行った。木下が何か言ったようだったが耳には入っていない。
全力疾走中で学校に向かっているのだが、もちろんこんなに慌ただしいのは年に一回あるかないかぐらい珍しこと。
いい訳なんて言わないが、とりあえずゆっくりし過ぎた。たまたま木下の読んでいた普通の本が、オレも知っているものだったからついつい話し込んでしまった。というよりも喋ってたのはオレばっかりだったけど。

普段、二十分はかかる道を今から十分以内に行かないといつも通りの登校ではなくなる。
それは正直言って困る。普段の生活を乱すことはしない。
息もきらないで自分のペースで走っているのだがもちろんのこと、走れば楽勝で学校には間に合う。
そうして余裕が出てきた今、木下の言葉を思い出して走りながら空を見上げる。

「なるほど」

確かに雨は降ってくるかもしれない。
天気予報では降水確率で五十パーセントって言ってたよな。それに加えて木下は確実に降るって予言したが結局無意味になった。
降らなければ傘はいらないし、降ったとしても別に濡れて帰るか誰か呼べばいいか。そうなるとやっぱり木下を呼ぶ他ないか。