進歩がないと言ってもちゃんと成果は出ている。
幻視を維持する時間、幻視までの発動時間、よりはっきりと形を成すこと、どれも確実によくはなっているのだがやはり大きな変化ではないが故、どうしても変化がないように感じる。変化を感じるのも後数回のトレーニングの後のことだろう。それをいつもオレは感じている。
だけど結局、オレは正しい事を言っている助歌の助言を参考にそのままトレーニングを止めることにした。
もちろん今の所、以前との変化など対して変わってないようにしか感じない。

……それと助歌が言っていた集中が出来ていないというのも合っている。
それは、このことを木下に黙っているということ。それをオレは考えていた。
木下ならば平然とした面でなんのリアクションも取らないだろうが、もし万が一拒絶されたらこの先やりにくい。
しかも初めてのリアクションが恐怖というのは正直オレがきつい。出来れば木下の初めてのリアクションは笑ってほしい。そう考えてるから。
まぁひょっとすれば一生オレが知っている内はあのままかもしれないがな。

知らないならそれでいい。恐らくオレから話すことはまずないだろうし、母上が許可しなければどっちにしろ話すことが出来ない。
 
なら、それでいいさ。

オレは雨音の廊下でそんなことを思いながら、木下が待つ部屋をとゆっくりと歩いて行くのだった。