有希乃が去って三日目の今日。

いつものようにオレは有希乃の部屋に足を運んでいる。
何をする訳でもない。ただ有希乃のベッドに腰掛けるだけ。
考えることなどない。考える必要などない。
ここに来ると有希乃を思い出す。たった唯一の手段。悲しみの部屋でもあるが、それでもオレはここにいる。
だって、ここなら有希乃の匂いがするから。悲しみでも感情に浸ることが出来るから。

「有希乃……」

呟く声は空しい。
呼んでも誰も来ないのは分かっている。けど、いつでもオレは呟くだろう。オレがオレであることを忘れないために。

――だってここを出れば、いるのは幻視灼蜘ではなく、未来が固定された玄武の末裔でしかない。
そこには何の感情もないのだから……。

「幻視様、今日もここに来ていましたか。そろそろ時間です」
「分かった」

オレは冷たい鉄仮面を纏い、部屋を出て行く。