「いらっしゃいませ」


いつもの接客トーンでお客さんに声をかける。


ほぼ毎日のように来てくれる常連の男性客だ。


河田さんと同年代くらいだけれど、公務員でカッチリとした性格をしている。


「モコちゃん、こんばんは」


爽やかなほほ笑みと白い歯をのぞかせる彼は好印象だった。


清潔感のある大人という雰囲気は、この『ロマン』の雰囲気にもよくあっていた。


「この子は?」


一番奥の席に座っている楓を見て、その人は聞いて来た。


「あたしの友達です」


あたしがそう答えたあと、間髪入れずに河田さんが口を開いていた。


「モコちゃんと一緒にバイトをしてくれることになった、鶴野楓さんです」


その言葉にあたしは目を見開いて河田さんを見た。


河田さんは営業スマイルを浮かべたままで、楓はニコニコととても上機嫌だ。


「ちょっと、どういう事ですか」


あたしは小声で河田さんに聞いた。


『ロマン』のアルバイトはあたし1人で十分やれることだった。


困っている事もなにもない。


それなのに楓を雇うなんて……あたしには納得のできない事だった。