二階に上がると、室内は落ち着いた雰囲気で、ショウケースが並べられ、時計やジュエリーもかざられていた。

ダイヤだろうなあ。みんな。
ベルベットの生地の上で、ピッカーッと宝石たちが輝いている。
凄い。の一言しかない。


「こちらがブライダルのラインナップです」

店の人が、こちらがエンゲージリングで、そっちがマリッジリングですと教えてくれた。


「HW社は、ダイヤの輝きがきれいだからね。最初にここの商品を見るといいよ」
井上氏が涼しい顔をしていう。


指輪が数種類。上品な輝きを放って輝いている。


「でも、これってエンゲージリングでしょ?」

私たちが、婚約指輪なんか見て、どうするのよ。
なんか、私だけが分かってないみたいに井上さんの顔色をうかがってる。

こんな高級な店、一人で来るのは敷居が高すぎて無理だから、いい経験として見ておくといいのかな。そんなふうにも考える。


「そうだよ。これは?1カラット?もう少し大きくてもいいかな。そっちも見てみる?」
井上さんは、一つを手にしてみて、簡単にものを言う。


「ええっ?これでも十分大きいと思うけど」
私は、話についていけなくて言う。
いくら見るだけだって言っても、そんなに高級な指輪を持ってきてもらうのは、図々しい気がする。


「こちらの3種類は1カラットからでございます」


センターストーンの両脇にダイヤをあしらった「ラウンド・クラシック」は370万から、まばゆく煌めく「マイクロパヴェ・リング」は最低でも410万からです。店の人が、説明してくれた。


「どれにする?」


「どれにするじゃなくて」


「見せてもらうだけでもいいよ。すぐに気に入ったのがあるとは限らないからね。君ならどんなのにする?その程度で、実際につけたらどうなるかなあって想像してみて」

どんなのにするって?

ショッピングモールに入っているような、ジュエリーショップなら、ちらっとのぞいたことがある。

でも、こんなにきれいに光ってなかったと思う。


「私なら、もっと可愛いの」


「可愛いって?」


「もっと、小さくてつけやすいのが……」


素晴らしく崇高なダイヤの輝きに、井上さんが何を考えてるのか予測する前に、目がくらんでしまいそう。写真で見るのと、実物を見るのでは、全然違う。

「では、0,5カラットでは?」

「はい」