子どものころは、視界の情報量の多さにやられて、体を動かすのがひどく苦手だった。


スポーツ物理学の本に出会った十二歳のころ、トレーニングを始めた。今でも継続している。


エネルギーの消耗が人一倍、早い。


ときどき食事の配分を失敗して動けなくなる。



跳躍したり地を這ったりして赤外線センサーをかいくぐり、庭を越える。


壁に取り付いて、二階までよじ登る。


鍵に針金を仕掛けてある窓を開けて、屋敷の中に入る。



「今夜も無事に侵入完了。ただいま戻りました、と」



つぶやいて窓を閉めて鍵を閉めた、その途端。



「海牙さん! また変な方法で入ってきたんですか! 普通に正面玄関から入ってくればいいのに!」



柱の陰から、黒髪ショートボブの女の子が現れた。


面倒くさい人に見付かってしまった。この窓、もう使えないな。



「ちょっとくらい遊んだって、かまわないでしょう? 迷惑をかけているわけじゃないんですから」


「そういう意味不明なところがザンネン男子なんです! 普通にしてたらカッコいいのに、モテませんよ?」


「ありのままのぼくを理解しない程度の人には、モテなくてけっこうです」