リナリア

* * *

 花火大会当日の2時50分。約束よりも10分前に名桜は梶が待つスタジオに着いた。

「名桜ちゃん!」
「梶さん!今日はよろしくお願いします。」
「楽しみだったんだ~!名桜ちゃん、とびっきり可愛くするからね。」
「…ほどほどで、お願いします。」

 まずは髪からやるということで、鏡の前に座る。

「…どういう感じにしよっか。やっぱりお団子?」
「…もう、お任せします。」
「あれー?花の女子高生が乗り気じゃない?」
「乗り気じゃないというか…緊張します。浴衣着るのも久しぶりだし、梶さんはプロですし。」
「大丈夫だよ、緊張しなくて。名桜ちゃんは、元々可愛いんだから。」
「そんなことはないですけどね。」
「ははは、即答かぁ。」

 梶の手が名桜の髪をさらっていく。慣れた手つきで、髪が形を作り出す。普段髪は無造作に束ねるくらいしかせず、ほとんどは下ろしたままなので首筋が心もとなく思える。

「ちょっと引っ張るけど痛かったら言ってね?」
「はい。」

 少し引っ張られ、また形が変わっていく。鏡があまり好きではないはずなのに、自分があまりにも変わっていくものだから今日は鏡から目が離せなかった。

「さーて、お次は顔ね、顔。ナチュラルにしましょう。充分、綺麗だから。」

 梶の手が名桜の顔に魔法をかけていく。化粧は魔法だといつも思っているが、こんな風に自分にかけられる日がくるとは思っていなかった。