リナリア

「…まぁ、その気持ちはわからなくはないよ。」
「え?」
「自分の出たものを誰かが喜んでくれる。それは確かに、幸せだ。」

 一瞬強い風が吹いた。その風が明るめの茶髪の隙間を通り抜けていく。風の流れを追うように知春の顔が上がり、その目は空を見つめている。

(…何を考えているのか全然わからない…とても、不思議なひとだ…。)

 名桜が撮った写真に文句があるというわけでもなさそうではあるものの、納得しているという感じでもない。こうなると一体どんな反応を返すのが正しいのかわからない。

「遅刻する!もう行っていいですか?」
「クラスどこ?」
「なんでそんなこと…。」
「昼休み、行くから。」
「だ、だめです!」
「なんで?」
「絶対さっきのだけですごい騒ぎになっていると思うので!」
「そんなの関係ないよ。それにもう少し聞きたいこともある。」
「私はないんですけど…。」

 仕事で顔を合わせるだけで充分だ。それに、この先の仕事も確定している。話ならそこでいい。今はこの遅刻しそうな現状と、教室で好奇の目にさらされることの方が問題である。そもそも名桜は人から注目されるのは好きではない。カメラのことで何かを言われるのならばいいが、芸能人とセットで何かを言われるのは嫌だ。

「…本当にさ、名桜は面白いね。」
「面白くなんて…!」
「自分で調べるよ。どうせ名桜だって有名人でしょ?」
「…それで知ったら昼休み来るんですか?」
「うん。」
「…それは困るので、昼、ここに来る、じゃだめですか?」

 本当は学校内で会うこと自体回避しなくてはならないが、こうなってしまっては苦肉の策だが了承するしかない。