少しだけあった間に隠れた躊躇い。それについ、笑いが込み上げた。

「言いたくないならいいけど。でも…。」
「……。」
「気になる。」


* * *

 突然耳に落ちた、たった4文字。知っていたはずの声とは少し違って、妙に心拍数が上がった。

「…どういう関係、という言葉に対して適切な言葉を返したわけじゃないです。」
「うん。名桜は何て言ったか気になる。」
「…知春さんの演技は人を強く惹きつける、と…思ってます、とは言いました。」

 言い終えると、何だか恥ずかしい。

* * *

(惹きつける、か。ちゃんと名桜の視線も捉えられてるかな?)

 真っ直ぐに返ってきた言葉が、耳にしみた。

「ちゃんと知春さんは私のことを好きじゃないって言っておきましたからね!」
「好きだよ?」
「え!?」
「名桜の写真も、仕事に対する姿勢も、俺割と好きだけど。」
「そ、それは…ありがたいなって思ってます。そうじゃないかって伝えておきました。」
「ん?どういうこと?」
「仕事のことを認めてくださってるんだと思いますって。」
「それは名桜もじゃん。」
「そうです。」
「友達じゃない、先輩じゃない。こういう関係、何て言うんだろうね。ビジネスパートナーってのとも違うじゃん?」
「…そうですね。いつも一緒に仕事をしているわけではありませんし…。」
「いっか。名前のない関係性もアリでしょ。名前なくても関係はあるんだから。」
「…名前をつける方が難しいですね。」
「あ、そうだ。次いつ名桜のこと捕まえられるかわかんないから今のうちに訊いておく。2週間後の土曜空いてる?」
「多分空いてますけど何ですか?」
「仕事の依頼をしたい。超個人的な仕事。」
「…個人的な、仕事?」