「モデルとしては俺よりたくの方がよかったと思ったけどな。」
「顔だろ、顔。所詮芸能界は顔なんだよ。顔でお前に勝てる気なんてしねーわ。」
「はいはい、所詮俺は顔だけ男ですよ。」
「顔だけでも取柄あったらいいだろ?なぁ、椋花?」
「まぁ、何もないよりマシでしょ。」
「てきびしー!」
「椋花、怒っちゃったじゃん。」
「顔だけ男、機嫌取るの頼んだわ。」
「えー…あ、そうだ、その雑誌貸して?」
「あぁ、あのカメラマンちゃんの仕事?気になるんかー?」
「んー…そうだね。」
 
 椋花の眉間に一瞬寄った皺に、知春は気付かない。
 あの日から仕事は一緒になっていないし、特に頻繁に連絡を取り合う仲でもないため、あの後名桜がどうしているのかは気になっていた。きっかけが上手く掴めなくてそのままになってしまっている。

「あのCMの看板に起用されたやつも名桜のだったりするのかなぁ、この調子だと。」
「え?」
「文句なしにかっこいいね、これ。」

 ペラペラとめくった先にある、整髪料の広告。真っ直ぐと射貫くような瞳が印象的な一枚だ。

「これが起用されたわけだけど、こっちは撮影風景集。写真撮られた後、何か喋ってるでしょ?」
「…おう、多分そんな感じ?」
「名桜との撮影は、そういうのが面白いよ。表現者としてやりたいこと、やってもらいたいこと、意見をすり合わせたり考えたりするのが。んで、こっちが出した『最大限』を『最高』の瞬間として切り取ってくれる。」
「惚れてんの?」
「…なんでそうなったの?」

 知春は呆れてため息をついた。