リナリア

「あのアシスタントの人でしょ?」
「え?」
「あれ、違った?」
「…そう、だと思います。」
「なんでだと思う、なの?名桜の好きな人じゃん。」
「…そう、なんだと思うんですけど、そうじゃないと説明がつかない…かなって。」

 ようやく掴めたかもしれない、『好き』という感情。まだ、上手く飲みこめないでいる感情だ。

「…指輪、してました。」
「あー…なるほどね。でも、ようやく気付いたんだ、好きだって。」
「…なんで、知春さんの方が先に知ってる風なんですか?」
「名桜見てたらわかると思うけどな。」
「…誰も、そんなこと、言ってくれなかったです。」
「あの人も鈍そうだし、しかも彼女できたの最近なんじゃないの、それ。」
「え?」
「だって指輪、今日初めて見たんでしょ?」
「…はい。」
「で、突然自覚したんだ。」

 名桜は知春の胸に顔を埋めた。そして頷いた。

「感情が大きく振れ過ぎて疲れたね。」
「…知春さんも…。」
「ん?」
「…指輪見たのかな、とか思ってしまいました。」
「…見たね。」
「ですよね…。」
「結構くるよね、指輪。」
「素敵なものだけど、だからこそ…余計に、相手のことが大事なんだって、わかるから…。」

 名桜を抱きしめる知春の腕が強くなった。思い出させてしまったのだとしたら、謝りたい。

「知春さん、あの…ごめんなさい…。」
「全然。今辛いのは名桜じゃん。」
「思い出させましたよね、辛さを。」
「…優しいね、名桜は。」

 ぽつりと落ちた言葉に、痛みを知る。今ならわかる。恋心が痛い、ということが。