リナリア

知春がスタジオに戻ってくると、すやすやと眠る名桜がいた。

「…食べたら寝るんだ…。」

　まだスタジオには知春と名桜しかいない。おそらくもう少ししたら、みんなが来る。その前に仕返しをすることにする。知春はスマーフォンを取り出した。カメラを起動する。名桜ほど上手く撮れるはずはないと知っていても、素人なりに少し頑張ってみる。
　口元についたタレらしきものもそのままで、一枚写真に収める。カメラを持っているときとは全く違う表情に笑いが込み上げてくる。

「あっ、名桜！」
「麻倉さん、よろしくお願いします。」
「よろしくね、そしてごめんね。今起こす…。」
「大丈夫です。疲れてたみたいだし、もうちょっと寝かせておいてあげてください。」
「この後仕事は？」
「今日はこれで終わりです。ここで台本読んで時間潰せますし、僕のことなら大丈夫です。」
「じゃあちょっと休ませてやってもいい？このゴールデンウィーク、僕もだけど名桜も休みなしでさ。」
「そうだったんですか…。お疲れ様です。」

　あの疲労しきった顔に納得がいった。休んでいなかったのだ。

「あの写真、好評みたいで。元々名桜への仕事もあったけど、それが増した感じ。」
「あぁ、そうでした。持ってきました。この前の雑誌。」
「名桜も喜ぶよ。」

　知春は起きる気配を一切見せない名桜を見つめた。口なんて半開きだ。ふっと笑いが込み上げてくる。そしてそれを隠すように席を立つ。

「控室に置いてきたので、台本と一緒に持ってきます。」