リナリア

「あ、ねぇ、…一つ、名桜に聞きたいことがあって。」
「は、はいっ!」
「そんなに緊張した顔しないで大丈夫だよ。」
「そう…なんですか?」
「うん。もう、今日一つ答えは貰ったから。今はそれで本当に充分だし。…答えをくれた名桜にこれ以上何かを求めるのもよくないってわかってるんだけど…。」

 『好き』だと自覚してしまったら、『もっと』が顔を出す。

「…どんなこと、ですか?」
「…理由が、なくても。」
「はい。」
「仕事の用事がなくても、…たとえば、ただなんとなく話したいとか、声が聞きたいとか、…そういう理由で名桜に連絡しても、いい?」

 最後の方は少し声が震えた。本当にこんな調子で役者をやっていけるのかと不安になるレベルで、名桜の前だと色々なことが上手くできなくなっていく。
 知春の言葉に、名桜は一度きょとんとした表情を浮かべ、そして徐々に顔は赤くなっていった。何を言われたのか、理解は遅れてやってきたらしい。

「えっと…あの、もちろんです。話すの、…上手じゃないですけど、聞くのはそれなりにできるかなって思いますので…。」
「名桜に聞いてほしいこともあるけど、名桜の声が聞きたいときは話してもらえると嬉しいんだけど…。」
「…上手く話せなくても、ですか?私、面白い話とかネタとかもってない…ですよ?」
「笑わせてほしいとか、そういうんじゃないよ。…ただね、『高校でばったり会う』はもうできないでしょ?仕事でも会える時は会えるけど…もうそれじゃ俺が足りない。…ので、名桜の受験勉強を邪魔しない程度に、隙間時間を少しだけ貰えたら…嬉しい。」
「は、はい!あの、それは…。」
「うん。」
「…私も、連絡をしてもいいってこと、ですか?」

 赤みがかった頬のままの名桜は、まっすぐに知春を見つめた。その赤さが静かに伝わってきて、知春の頬もほんのりと赤く染まった。

「…うん。すぐ返せない時もあるけど、連絡きたら嬉しい。いつでもしてね。くだらないって思うようなことでも、…嬉しいよ。仕事の話でも相談でも何でも。…物理的な距離をいつでも埋められるわけじゃないから、ほんの少しの時間でも名桜と過ごせるなら、…明日の仕事を頑張る俺のエネルギーになる。」
「…せ、責任が重大…かもしれません。」
「え、なんで?大丈夫だよ。名桜は名桜のままで。」

 妙に真面目な名桜に自然と笑みが零れる。目が合うと少し照れくささもあるのに、それでもやっぱり嬉しいのだから名桜は自分にとっての『特別』なのだ。