リナリア

* * *

 屋上に着くと、名桜は知春の方を振り返った。ありがたいことに今日はそこまで寒くはなく、冷えて話せないということにはならなそうだった。

「…知春さん。あの、…話す順序が違っていたらすぐ言ってくださいね。」
「話す順序?」

 名桜は頷いた。何から話せばいいのか、どう話したら伝わるのか散々考えたが、頭の中は『待たせてはいけない』ということでいっぱいだった。まっすぐに向けられた想いと言葉を宙ぶらりんの状態にはしておきたくなかった。

「…知春さんの言葉を…ずっと、…言っていただいた日からずっと…考えていて。」
「うん。」
「知春さんのようにまとまっている形では…多分ないと思うんですけど…それでも、あの、返せるものが何もなくても…言っておかなきゃいけないことは…ある気がしていて。」
「名桜。」
「は、はいっ!」

 名前を呼ばれて、名桜は顔を上げた。少しだけいつもよりも頬が熱い。そんな気がする。

「…無理させてるよね、俺が。」
「い、いえっ!」
「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。どんな話でも聞くし、順番とかも関係ない。名桜が言いたいことから話してよ。」
「…言いたいこと…。」
「うん。」

 知春は微笑んだ。その微笑みで、名桜の肩の力が少しだけ抜ける。

「…言いたいことは…その…。」
「うん。」
「…すぐには…知春さんの言葉に答えを出せない…のは、知春さんが大事な人…だからで…。」
「…うん。」
「…でもその大事っていう気持ちが、どの大事なのかは区別がつかないんです。知春さんと同じような気持ちで大事だって思ってるのか、彩羽さんを大事って思うのと似た気持ちなのか…今の私ではわからなくて。」

 正直な気持ちだった。知春のことは大切なのだ。一緒に時間を過ごしたことも、話をしたことも、辛い場面を見せたことも見てしまったことも含めて全てが必要だったと思うし、それがなければきっとこんな風に大事に思うことはなかった。

「…そっか。…じゃあ、もう話しませんとかにはならないかな?」
「な、なるわけないです!」
「…よかった。あのさ、こうやってね、名桜が話してくれてることがもうすでにご褒美みたいなものだからね。…だから、全然、急いでないよ。」

 知春が再び微笑む。その笑みに、名桜も小さく笑みを返した。