リナリア

* * *

 帰路につく知春のポケットのスマートフォンが不意に揺れた。彩羽からの連絡だ。画面をタップすると、名桜と彩羽の2ショットがあった。名桜はメイクを施されているようでいつもと顔が違った。メイクをすると格段に大人びて見える。長い髪もいつもとは違い、くるくると巻かれていた。

「…可愛い。」

 零れ落ちた本音だった。メイクをして、いつもと違う髪型だから可愛いというわけではなくて、照れながらも少し嬉しそうな表情が滲むところが可愛かった。直接会えれば可愛いと伝えられるけれど、今の知春にそれは難しい。そんなことを思っていたら、彩羽から着信がきた。

「もしもし。」
『どうどう?なっちゃん、可愛いでしょ?』
「はい、とても。写真、わざわざありがとうございます。」
『いえいえ!可愛いなっちゃんを私が独り占めしちゃうのはなんだか気が引けてさー。』
「あの、つかぬことを聞きますが…。」
『うん、何?』

 底抜けに明るい彩羽の声が、今はただありがたかった。

「名桜、大丈夫でしたか?」
『何をもって大丈夫って言ってる?』
「泣いて…いませんでしたか?」

 少しだけ躊躇いが生じ、声が震えた。

『うん。会った時には泣いてなかったよ。最初はちょっと暗かったけど、でもなっちゃんはね、強い子だから大丈夫。いっぱい食べさせたし!』
「食事に行ったんですか?」
『そう!何の気なしに電話したら声が暗いんだもん、誘っちゃうよ。』
「…そう、でしたか…。彩羽さんと会っている間に名桜が笑っていたのならそれで…。僕は奪ってしまったかもしれないので、笑顔を。」

 名桜からおそらく話は聞いているだろうし、彩羽は何かと目ざとい。隠せる相手ではないだろうし、それを吹聴して歩くような人でもない。だから思わず、心のつっかえを話してしまう。

「そんなことはね、多分ないよ。っていうか私のためにも絶対後悔したみたいなこと言わないでよね、ちーちゃん!」
「彩羽さんのため?」
「そう!私もいつか…まあ会えたらだけど、ちーちゃんみたいに言うと思うから。それをね、後悔したなんて聞きたくないよ。」
「…やっぱり、名桜が話しましたか、僕が何を話したか、彩羽さんに。」
「ううん。でも当てちゃった。だって現状、なっちゃんのことを笑顔にするのも表情を曇らせるのもちーちゃんしか浮かばなかったから。」

 彩羽の言葉が良くも悪くも刺さる。知春はふぅっと息を吐いた。

「…後悔はしてません。…今日の僕は、いろんな人に励まされてばっかりだなぁ…。でもだから、今は後悔してないです。写真も電話もありがとうございました、彩羽さん。」
「いえいえ。ま、なっちゃんのことは任せてよ。ちーちゃんの恋バナも興味あるし?」
「…あ、いえ、興味もたないでください。恥ずかしいんで。」
「ちぇー可愛くないっ!」