リナリア

 楽しいアルバムも、気付けばあと1ページ。最後のページには…

「…これ…。」
 
 後夜祭で知春が名桜のスマートフォンを借りて撮った自撮りの1枚だ。頬をツンツンされた名桜がくすぐったさに吹き出してしまうという他のどの写真にもない表情のもので、その写真をじっくりと見つめた知春は、添えられたコメントに視線を移した。

『高校生らしい写真でこのアルバムを締めくくります。落としたら困るので、お家の片隅に置いてくださると嬉しいです。この度はご卒業、おめでとうございます。知春さんの高校生活の一部に少しでも関わることができたことを、嬉しく、そして光栄に思います。』

 知春はアルバムを閉じた。そして空いている方の手で、名桜の手を取った。

「…こんなにすごいの、貰っていいの?」
「す、すごくないです!知春さんはもっとすごいものに載ってらっしゃいますし、本格的に製本とかしたほうがいいかな…とも思ったのですがそれをやるには時間がなく…。」
「…これがいい。…ありがとう、名桜。大事にする。」

 袋に戻し、口を閉める。ほとんど何も入っていないカバンにアルバムをしまって、知春はもう一度、名桜の方を向いた。

「…知春…さん…?」

(…ごめん、名桜。このままいつもみたいに別れれば、今まで通りでいられるってわかってる。でも、それがもうできない。)

 今から自分がすることは、名桜が少しも想定してないことだ。だから驚かせるし、もしかしたらもう二度と、今のような距離に立つことを名桜は許してくれなくなるかもしれない。そんな不安はある。それでも、きっと言わずにいることはできない。だって、気がつけば手を伸ばしてしまうのだから。なぜ近付きたいと思うのか、もっと話したい、もっと笑ってほしい、そんなことを思うのか、『もっと』を求めてしまうのか。名桜が少し鈍いから許されているのであって、もっと前にどうして?と問われてもおかしくないことをしている。その自覚はあった。知春はすうっと小さく一度深呼吸をしてから、口を開いた。

「…名桜。こんなの準備してくれて、卒業も祝ってくれて、ありがとう。たくと椋花との写真も、名桜に撮ってもらいたかった。高校生活の最後の日には、名桜に見送ってもらいたかった。…『はじまりの場所』に、もう一回一緒に来たかったんだ。…名桜のことが、好きだから。」