リナリア

* * *

 知春に手を引かれるまま、二人は中庭に来ていた。校庭の方からは距離があるため、まだ生徒は残っている時間だろうが静かだった。手が離れて、その離れた知春の手がとある花に触れた。

「…リナリア。」
「本当ですね。まだ咲き始めって感じで多くはないですが。…ここは、知春さんを学校で撮影した最初の場所ですね。」
「うん。名桜が注目を浴びすぎちゃって、ちょっと機嫌が悪かった日。」
「機嫌が悪かったんじゃなくて、悪目立ちして質問攻めにあったんですよ。あの伊月知春に声を掛けられた凡人は誰だーって、周りが騒ぐのも無理のない話ですし。」
「凡人って言うけど、俺からしたら名桜は全然凡人じゃないからね。」
「そうですか?知春さんに比べたら凡人だと思うんですけど…。」
「まぁ、…普通の人は計算で涙を流さないよなぁって、俺も卒業式出ながら思ってたよ。」
「そんなことを考えていたんですか…。知春さんには寂しいとか、卒業したくない…みたいな気持ち、ありますか?」
「え?」

 名桜は静かに疑問を口にした。あと1年後には自分も卒業だが、自分が1年後にどうなっているかなんて想像もつかない。

「…珍しいね、名桜がそんなこと言うの。」
「来年は私が卒業するんだなって思っても、すごくぼんやりとしてて。だから当事者の意見を参考にしようと思ったんです。」
「なるほどね。じゃあ答えます。寂しい気持ちはないよ。あと、卒業したくないとも思ってない。…次々来る新しいことに出会っていく方が、今は面白いと思えるから。」
「面白い…ですか?」
「うん。…そう思うようになったのは、名桜に出会ったからだよ。あんまり乗り気じゃなかった役も、名桜のおかげで乗り越えられた。…わからないことは恥ずかしいことでも、無理なことでもないってわかった。…それが、大きな成果だったかな、個人的には。」
「…お役に立ててるところ、ありましたか?」
「うん。もっと名桜は自信もって!映画のSNSもバズってるしさ。どれも好評で、映画の注目度も上がってる。名桜が撮ってたもので、たくさんの人が喜んでくれて、興味をもってくれてる。誰もができることってわけじゃないよ。」

 SNSも好評だというのは、人伝に聞いていた。ただ、それを自分の目で確認する余裕がなくて見れていなかったが、これからは自分の仕事が世にどのように受け入れられていったのかをもっと見なくてはならないとそう思う。そうすれば、もっと自信がもてるのかもしれない。知春に並び立って、引け目や妙なもやもやとした気持ちを抱えなくても仕事ができるようになる。それは今の名桜が目指したい姿の一つでもあった。