リナリア

「あっ、皆さん!ご卒業、おめでとうございます。」

 名桜が深々と頭を下げる。そして顔が上がると、そこには穏やかな笑顔が浮かんでいた。

「卒業写真、お願いします。」
「はい!…えっと、背景は…どこもあまり変わらないので、光の加減で立ち位置を決めてしまってもいいですか?」
「うわ、名桜ちゃんプロみてぇ…。」
「失礼なこと言わないで、たく。名桜はプロです。」
「そうでした。ごめん!」
「あ、いえっ!逆光ですと皆さんの顔が曇ってしまいますし、今日は風が強いですが天気はいいので、そのままお日さまの光で充分綺麗に撮れますよ。ここかな。うん。ここでお願いします。」

 名桜が首にかけた一眼レフを持つ。何枚か試し撮りをして、明るさを改めて見ているようだった。

「真ん中は誰にする?」
「知春じゃね?」
「え~二人の間に割って入るの、気が引けるんだけど~。」
「知春が真ん中!今決まった!…あの子の前で余計なこと言わないで、知春。」

 椋花の耳が赤い。そんな姿に知春は笑う。椋花とは付き合いが長いけれど、こんな風に照れる椋花のことは初めて見る。

「ごめんって。じゃあ俺が真ん中でお願いします!」
「はい!では撮りますよ。」

 心地よいシャッター音が聞こえてくる。名桜はよくいるカメラマンのように過剰に褒めながら撮影はしない。あまり話すのが得意ではないと自分で思っているからでもあるだろうし、そもそもその一瞬を切り取るのに必死だからとも言える。

「ねぇ、私の背中叩いてる人って拓実でしょ?」
「たくだねぇ。」
「絶対椋花、顔硬いと思って和ませてやってんだろ。」
「余計なことしなくていいから!」

 終始和やかな表情をファインダー越しに眺めて、名桜も微笑んだ。卒業式には涙がつきものだと思っていたが、笑顔の卒業式も素敵だ。自分は来年、どんな卒業を迎えているのだろう。そんなことを思うと、シャッターを押す指に力が入った。 

「確認してもらってもいいですか?」
「うん。」

 名桜の横に立ち、知春が一眼レフの液晶画面を見た。全身が入ったものと上半身が入ったもの。最初のものは表情が硬いが、次第にほぐれていく。いつもの笑顔が1枚に収まっていて、3人は自然と笑顔になった。

「ありがとう。」
「最後のすげーよかった。それ欲しい。」
「…私も、貰ってもいいかな?」
「もちろんです。知春さんしか連絡先を存じ上げないので、知春さん経由でデータを共有していただいてもいいですか?現像をご所望でしたらうちでやりますので、それも仰ってくださいね。」
「至れり尽くせりだな…。」
「名桜、忙しいんだからあんまり無茶しないでね。…んじゃ、名桜。俺たちはちょっと別の場所に移動。」
「…移動、ですか?」
「うん。じゃああとはごゆっくりー。」

 知春は名桜の手を取った。そしてそのまま、屋上を後にする。