* * *
卒業式が明日に迫った夜21時半。椋花は風呂上がりで、タオルドライをしながら自室に向かっていた。ベッドの上に座ってスマートフォンを見ると着信が入っていた。
「…拓実?」
拓実からくだらないLINEが来ることは普通に会った。しかし着信というのは珍しい。そして明日は自分で言った『期限の日』でもあった。そう思うと、スマートフォンを握る自分の手には緊張が走る。
着信が来ていたのは30分ほど前だった。無視して寝るには時間が早すぎるし、かといって折り返す勇気はすぐには持てない。
(…何て言うのが正解、なのかな。)
拓実は卒業間近のここ数日は、告白ラッシュだと聞いた。椋花が直接見聞きしたわけではないが、確かに12月も突然パッと一人でいなくなっているときがあったような気がする。年が明けて、共通テストが終わってからは自由登校になり、進路が決まっている椋花はほぼ行っていなかった。
可愛い子に告白されて、いつまでも返事をしない女なんて捨てて、やっぱりこっちがいいなんて言って、告白を受け入れているのではないかと思う気持ちがすっと脳をかすめる。それと同時に拓実のまっすぐな視線や表情を思い出して、そんなことを思う自分はつくづく最低だなと思って余計に落ち込む。そんなことをずっと繰り返している。
「…相手のことを疑う前に、自分のことをはっきりさせなさいよね…本当に。」
こんな自分のどこがいいのだろう。拓実への気持ちを考えれば考えるほど、自分の嫌なところにしか目がいかない。だから拓実の気持ちに納得ができない。拓実なら、もっとたくさんの女の子の中から選び放題なのに、と。
ぎゅっとスマートフォンを握る。このモヤモヤした気持ちを抱えたまま、拓実に会っていいのだろうか。そんなことを思っていた矢先、手元から大きな音が鳴った。おそるおそる画面を確認して、やはり考えていた人からの着信で、応答の文字をタップした。
「…もしもし。電話出れなくてごめん。お風呂入ってた。」
『あ、やっぱさすがにまだ寝てなかったよな?』
「さすがに9時には寝ないかな。」
『なに、なんか元気なくない?』
「…あっ、いや…そんなことはないけど、拓実から電話って珍しいから何かなって。」
『んー…いや、なんか最近会ってなかったなって思って。あと、明日が期限だぞーって言っておこうかなと。』
「…それは、わかってる。忘れたことない。」
『ん。ならいい。っていうか、そんな思い詰めなくていいよ。とりあえずさ、椋花のそのまんまの気持ち、話して。』
「…ぐちゃぐちゃでも?」
『うん。それはそれでいいって。ひとまず何考えてんのかわかんないと、俺も動きようがない。』
「…わかった。」
『んじゃまた明日な。…おやすみ。』
「おやすみ。」
椋花はスマートフォンをきゅっと胸元で抱きしめた。ぐちゃぐちゃでもいいという言葉は、少しだけ勇気に変わる。
「…言う。わかんないけど…。」
わからないけれど、拓実が他の子と付き合うとなったら、それは嫌だなと思っていることを。
卒業式が明日に迫った夜21時半。椋花は風呂上がりで、タオルドライをしながら自室に向かっていた。ベッドの上に座ってスマートフォンを見ると着信が入っていた。
「…拓実?」
拓実からくだらないLINEが来ることは普通に会った。しかし着信というのは珍しい。そして明日は自分で言った『期限の日』でもあった。そう思うと、スマートフォンを握る自分の手には緊張が走る。
着信が来ていたのは30分ほど前だった。無視して寝るには時間が早すぎるし、かといって折り返す勇気はすぐには持てない。
(…何て言うのが正解、なのかな。)
拓実は卒業間近のここ数日は、告白ラッシュだと聞いた。椋花が直接見聞きしたわけではないが、確かに12月も突然パッと一人でいなくなっているときがあったような気がする。年が明けて、共通テストが終わってからは自由登校になり、進路が決まっている椋花はほぼ行っていなかった。
可愛い子に告白されて、いつまでも返事をしない女なんて捨てて、やっぱりこっちがいいなんて言って、告白を受け入れているのではないかと思う気持ちがすっと脳をかすめる。それと同時に拓実のまっすぐな視線や表情を思い出して、そんなことを思う自分はつくづく最低だなと思って余計に落ち込む。そんなことをずっと繰り返している。
「…相手のことを疑う前に、自分のことをはっきりさせなさいよね…本当に。」
こんな自分のどこがいいのだろう。拓実への気持ちを考えれば考えるほど、自分の嫌なところにしか目がいかない。だから拓実の気持ちに納得ができない。拓実なら、もっとたくさんの女の子の中から選び放題なのに、と。
ぎゅっとスマートフォンを握る。このモヤモヤした気持ちを抱えたまま、拓実に会っていいのだろうか。そんなことを思っていた矢先、手元から大きな音が鳴った。おそるおそる画面を確認して、やはり考えていた人からの着信で、応答の文字をタップした。
「…もしもし。電話出れなくてごめん。お風呂入ってた。」
『あ、やっぱさすがにまだ寝てなかったよな?』
「さすがに9時には寝ないかな。」
『なに、なんか元気なくない?』
「…あっ、いや…そんなことはないけど、拓実から電話って珍しいから何かなって。」
『んー…いや、なんか最近会ってなかったなって思って。あと、明日が期限だぞーって言っておこうかなと。』
「…それは、わかってる。忘れたことない。」
『ん。ならいい。っていうか、そんな思い詰めなくていいよ。とりあえずさ、椋花のそのまんまの気持ち、話して。』
「…ぐちゃぐちゃでも?」
『うん。それはそれでいいって。ひとまず何考えてんのかわかんないと、俺も動きようがない。』
「…わかった。」
『んじゃまた明日な。…おやすみ。』
「おやすみ。」
椋花はスマートフォンをきゅっと胸元で抱きしめた。ぐちゃぐちゃでもいいという言葉は、少しだけ勇気に変わる。
「…言う。わかんないけど…。」
わからないけれど、拓実が他の子と付き合うとなったら、それは嫌だなと思っていることを。



