「手を握り返してもらえるっていうのは…その、当たり前じゃないんだなっていう空気を出せてたらいいなと思っています。」
「初々しいコメントですね、伊月さん。なんだか意外です。」
「意外ですか?僕、本当にこういう想いが届く役って初めてで…だから杏が握り返してくれたときの驚いた表情は、色々試行錯誤の末にああなった感じです。」
名桜は、あの夏の日を思い出す。手を握る練習をして、握り返されると困っていた知春を見てきた。ずっと、たくさんのことを悩んでいた。リハーサルでも本番でも、そんな様子は微塵も出さずに。
「…知春…さん…。」
思わず、名前を呼んでしまった。言ってしまってハッとし、思わず名桜は口を押さえる。それに気付いた上原は名桜の方に視線を向けた。
「知春が悩んだり、苦労してたりしてたの、麻倉さんはちゃんと見てたんだね。」
「…ちゃんとかどうかは…わからないですけど…。」
「ちゃんと、でしょ。じゃないと知春にあの演技はできなかった。…ちゃんと幸せそうな顔してたね、知春。それってさ、知春が体験したことのない『両想い』の輪郭が見えたからだと思うし。」
「…悩んでいたことは、知っています。…手伝えることは手伝ったつもりでしたけど、でも知春さんはちゃんとご自分で確かめて、視線や手で距離を測って、『大和』になった。そういう姿を間近で見て…役者というものは本当に心も頭も費やさねばできないこと、それに真摯に知春さんが向き合ってることがわかって…。」
初めて見た本物の仕事に、今までにない距離を感じた。…これは言えない。そもそも、距離が近かったわけではないのだ。知春がすっと距離を縮めて隣に来てくれるから、名桜は隣にいることができただけのこと。
「俺らは確かにいつでも真剣には向き合うけど、でも、…一人で頑張ってるわけじゃないよ。」
上原の言葉に、名桜はゆっくりと顔を上げた。
「一人で頑張るのはね、無理なんだよ。」
上原の視線が、知春の方を向いた。名桜もそれに合わせて、知春に視線を戻した。
「手を握り返してもらえる。それって本当に幸せなことで…だからたとえば恋人でも、友達でも、家族でも、そうやって気持ちが自分にあるんだなとわかる触れ合いを、大切だな、幸せだなってこの作品を見て思っていただけると嬉しいです。本当はもっとときめいてくださいとか言えたらいいんですけど、…ちょっとそこは自信がないので。」
そう言って照れたように微笑む知春に、隣に立つ彩羽が『きゅんきゅんしてって言ってよーもう!』と言って、軽く背中を叩いた。
「初々しいコメントですね、伊月さん。なんだか意外です。」
「意外ですか?僕、本当にこういう想いが届く役って初めてで…だから杏が握り返してくれたときの驚いた表情は、色々試行錯誤の末にああなった感じです。」
名桜は、あの夏の日を思い出す。手を握る練習をして、握り返されると困っていた知春を見てきた。ずっと、たくさんのことを悩んでいた。リハーサルでも本番でも、そんな様子は微塵も出さずに。
「…知春…さん…。」
思わず、名前を呼んでしまった。言ってしまってハッとし、思わず名桜は口を押さえる。それに気付いた上原は名桜の方に視線を向けた。
「知春が悩んだり、苦労してたりしてたの、麻倉さんはちゃんと見てたんだね。」
「…ちゃんとかどうかは…わからないですけど…。」
「ちゃんと、でしょ。じゃないと知春にあの演技はできなかった。…ちゃんと幸せそうな顔してたね、知春。それってさ、知春が体験したことのない『両想い』の輪郭が見えたからだと思うし。」
「…悩んでいたことは、知っています。…手伝えることは手伝ったつもりでしたけど、でも知春さんはちゃんとご自分で確かめて、視線や手で距離を測って、『大和』になった。そういう姿を間近で見て…役者というものは本当に心も頭も費やさねばできないこと、それに真摯に知春さんが向き合ってることがわかって…。」
初めて見た本物の仕事に、今までにない距離を感じた。…これは言えない。そもそも、距離が近かったわけではないのだ。知春がすっと距離を縮めて隣に来てくれるから、名桜は隣にいることができただけのこと。
「俺らは確かにいつでも真剣には向き合うけど、でも、…一人で頑張ってるわけじゃないよ。」
上原の言葉に、名桜はゆっくりと顔を上げた。
「一人で頑張るのはね、無理なんだよ。」
上原の視線が、知春の方を向いた。名桜もそれに合わせて、知春に視線を戻した。
「手を握り返してもらえる。それって本当に幸せなことで…だからたとえば恋人でも、友達でも、家族でも、そうやって気持ちが自分にあるんだなとわかる触れ合いを、大切だな、幸せだなってこの作品を見て思っていただけると嬉しいです。本当はもっとときめいてくださいとか言えたらいいんですけど、…ちょっとそこは自信がないので。」
そう言って照れたように微笑む知春に、隣に立つ彩羽が『きゅんきゅんしてって言ってよーもう!』と言って、軽く背中を叩いた。



