* * *
「では、ご登場いただきましょう。兼坂彩羽さん、伊月知春さんです。皆様大きな拍手でお迎えください。」
司会のアナウンスで、二人が登壇する。満面の笑みで手を振りながら出てきた彩羽の後ろに続いて、柔らかな笑顔を浮かべた知春が歩く。知春に近いところに座っていた女性客からは黄色い悲鳴があがった。
(…すごい人気だ…お客さんは女性と男性半々って感じ…かな。)
「本日はお越しくださりありがとうございます。望月杏役の兼坂彩羽です。わ~うちわがある!アイドルみたい私!ありがとうございます。すっごく可愛いです。」
彩羽の名前が書かれた自作のうちわを見つけて、にっこりと笑う彩羽はとても可愛らしかった。そんな彩羽を見て、上原はくすっと笑う。
「面白い子だよなぁ、彩羽ちゃんも。喋るとあんな感じなのに、静かな役に5秒くらいでスンって入るから、一緒の現場だとちょっとビビる。」
「…彩羽さん、やっぱりそういう感じなんですね。」
「やっぱり?」
「はい。『杏』はいつも自信がなさそうで、視線が揺れる。…さっきまでの映画の彩羽さんと、今のにこにこの彩羽さん、本当に違う人みたいに見えますね。同じ人なのに。…それが、皆さんの凄さです。」
名桜は知春を見つめた。こうやってステージに立つ知春を見るのは文化祭ぶりだった。たとえばこれからもし舞台をやるということになれば、きっとこの立ち位置でまた見ることになる。知春は舞台の上の人で、当たり前に自分はそうではない。住む世界は地球であるという意味では同じでも、光の当たり方が違うところを歩いている。
(…ああ、もう。映画の時からずっと、こうやって変なことを考えてしまう。仕事が違うんだから、立ち位置が違って当たり前なのに。)
名桜は一度頭を振った。そして壇上の知春をもう一度見た。
「神代大和役、伊月知春です。…あの、彩羽さんと違って僕、こういうの初めてで緊張しているので、お手柔らかにお願いします。」
「あっ、え、そうなの?」
「そうだって始まる前に話したじゃないですか…。」
会場が柔らかな笑いに包まれる。彩羽と知春の空気が名桜の知っているものでなんだかホッとする。名桜の口元も自然に緩んだ。
「では、ご登場いただきましょう。兼坂彩羽さん、伊月知春さんです。皆様大きな拍手でお迎えください。」
司会のアナウンスで、二人が登壇する。満面の笑みで手を振りながら出てきた彩羽の後ろに続いて、柔らかな笑顔を浮かべた知春が歩く。知春に近いところに座っていた女性客からは黄色い悲鳴があがった。
(…すごい人気だ…お客さんは女性と男性半々って感じ…かな。)
「本日はお越しくださりありがとうございます。望月杏役の兼坂彩羽です。わ~うちわがある!アイドルみたい私!ありがとうございます。すっごく可愛いです。」
彩羽の名前が書かれた自作のうちわを見つけて、にっこりと笑う彩羽はとても可愛らしかった。そんな彩羽を見て、上原はくすっと笑う。
「面白い子だよなぁ、彩羽ちゃんも。喋るとあんな感じなのに、静かな役に5秒くらいでスンって入るから、一緒の現場だとちょっとビビる。」
「…彩羽さん、やっぱりそういう感じなんですね。」
「やっぱり?」
「はい。『杏』はいつも自信がなさそうで、視線が揺れる。…さっきまでの映画の彩羽さんと、今のにこにこの彩羽さん、本当に違う人みたいに見えますね。同じ人なのに。…それが、皆さんの凄さです。」
名桜は知春を見つめた。こうやってステージに立つ知春を見るのは文化祭ぶりだった。たとえばこれからもし舞台をやるということになれば、きっとこの立ち位置でまた見ることになる。知春は舞台の上の人で、当たり前に自分はそうではない。住む世界は地球であるという意味では同じでも、光の当たり方が違うところを歩いている。
(…ああ、もう。映画の時からずっと、こうやって変なことを考えてしまう。仕事が違うんだから、立ち位置が違って当たり前なのに。)
名桜は一度頭を振った。そして壇上の知春をもう一度見た。
「神代大和役、伊月知春です。…あの、彩羽さんと違って僕、こういうの初めてで緊張しているので、お手柔らかにお願いします。」
「あっ、え、そうなの?」
「そうだって始まる前に話したじゃないですか…。」
会場が柔らかな笑いに包まれる。彩羽と知春の空気が名桜の知っているものでなんだかホッとする。名桜の口元も自然に緩んだ。



