「クリスマスイブも、当日も…バイト入れちゃった。ケーキ屋。」
「はぁ?あのさぁ、告白されてる側だってわかってんのかよ。」
「…忘れたことは、ない。でもごめん、考えてもなんか、拓実の気持ちに誠実じゃない気がして…。」
「んーまぁ、なんかぐるぐる考えて、受験あったから一旦横に置いといて、また考えて、答え出なくて~ってなってんだろうとは思ったけど。」
「…合ってる。さすがだね。」
「だてに片思いしてませんから。」
「それ!そういうのやめて!」
「なんで。」

 拓実がいつになくまっすぐに、真剣な目で見てくるものだから、椋花のほうがたじろいだ。一度合った視線を先に泳がせてしまったのは椋花だ。

「…びっくり、するんだってば。」
「本気だってわかるからだろ。」
「…そ、う。」

 結局のところそうなのだ。あの後夜祭の夜に見た拓実の表情が脳に焼き付いたままで、それを思い出すと苦しくなる。このくらいまっすぐな気持ちと、まっすぐな目で拓実を見つめ返さないといけない気がして、そしてそれを上手くできる自分が全く想像できなくて。

「…本気だってことは、ちゃんとわかってんだ。」
「…さすがに、それは。」

 椋花は俯いた。『嫌いじゃない』という気持ちは、一体何に変わるのだろう。それとも、『嫌いじゃない』はずっとそのままで、変わらないのだろうか。知春を好きだった時期があったと思っていた。でも今はその気持ちが、本当に『好き』というものだったのかすら自信がない。

「とりあえず、高校卒業しても会うから、普通に。」
「会う…?」
「舞台、俺も観たい。まぁどっちかっつーと映像系に進むけど、でも舞台演出とかも面白そうだとは思ってるし。一緒に行く相手がいないときは俺を誘うこと。俺も椋花のこと誘うから。」
「…わかった。…えっと、卒業までにはちゃんと話す、から。」
「…うん。期待してる。」

 サラッと言われた言葉が、椋花の心拍を上げる。拓実が今まで見たことがないくらい柔らかい笑顔を浮かべてそう言っているからのような気がして、椋花はまたしても目を逸らす。

「何?なんでそんな何回も目、逸らす?」
「…コロコロ表情、変わりすぎだから…!」