リナリア

「でも後日、その人がテレビで本当のことを話してくれるときがあって、そこで話してたんだ。…だから、絶対に無理って話ではないと思う。」
「…すごい…そんなことが…。」

 知春は柔らかく微笑んだ。

「彩羽さんのことを覚えていないわけはないだろうし、大学を卒業する頃には彩羽さんも出ずっぱりになるだろうし。雑誌が出てすぐとはいかなくても、彩羽さんがこの世界にいることを知るチャンスは確実に増えていくと思う。」
「…そうだと…いいな…。」

 ふとこぼれ落ちた本音。親が子供を愛さないこと、親同士が上手くいかないこと、愛し合っていても死別してしまうこと。苦しみはきっと人の数だけあって、どれも同じものはない。ならば、少しでも幸せで穏やかな時間が長くなるようにしたいと思う。そのために自分の存在や、できることが誰かの助けになるときは進んで動きたい。そう思えるのは、自分が大切にされてきたことを知っているからでもあり、誰かに救われてきた経験もあるからである。たとえば、一人で泣き濡れた夜に手を差し伸べられた日があったように。あの日を思い出して、名桜は知春の方を少し見上げた。

「ん?」
「あっ、いえ!その、彩羽さんにとってのその方は、私で置き換えたら知春さんかもしれない…と思いまして。」
「え、そ、そう?そこまで名桜の人生に影響与えるようなこと、できてる?」
「…辛かった日に、一人にしないでもらいました。」
「それは俺も同じだから。…でもそう考えたら、彩羽さんが忘れられなくて会いたい気持ちも、…よくわかる。」

 一度静かに目を閉じた知春がゆっくりと目を開け、名桜に視線を戻す。

「…当たり前だけど、自分にとって一人じゃ耐えられなかった、一人で乗り越えるにはきつかったなって思うときに手を差し伸べて、一緒に歩いてくれた人のことを忘れられないよね。何も言えずに離れることになったんだとしたら尚更、言い残したことも言えなかった気持ちもあるだろうし。言えなかった、という経験が言いたいという気持ちを生む、…的な。」
「…そうかもしれません。だからこそ私は今の立場に甘んじず、知春さんに感謝しながら頑張ります。」

 名桜はにっこりと微笑んだ。それに返ってくる知春の笑みも優しくて、知春だけが先にどんどん進んでしまっているように感じた不安が少しだけ薄れたような気がした。