リナリア

「映画のときは忙しくて、撮影が終わって少し落ち着いて、まぁまた少し忙しさが戻ってきた感じかな。でも、大学生になったら仕事は少しセーブして学業に専念するつもりだから。とはいえ多少は出れるようにオーディションとか受けるけど。」
「あの…。」
「うん。」

 いつもと変わらない知春のようでいて、そうではない知春にも見えて、少しの不安が名桜の心を掠めていく。

「名桜?」
「あっ…すみません。てっきり俳優の道に進むのかと思っていたので。」
「仕事は辞めないよ。面白いと思ってるし、もっといろんなことができるようになりたいって思ってる。でも、不確かな世界でもあるから。だからこの世界でしか生きられない自分にはしたくないってのが本音かな。」

 知春が思い描く将来の話が知春らしくもあるように聞こえるのに、たった1歳しか違わない人が先を見据えて、はるか遠くに行ってしまっているような感覚が名桜を包む。1年しか違わないという認識自体がずれていて、実際は1年も違う、だったのかもしれない。

「…なんだか…あの…。」
「うん。」
「…すごいですね、知春さんは。そんな先のことまで考えていて。私は…父の真似事を少し始めてみて、少しずつやってみたいことが浮かんではいるものの、それをどうしたらやれるかとか、そんなことまでは全然…。」

 映画の撮影時にも思った、知春との明確な距離。もちろん活動するフィールドが違うのだから距離があって当然だが、知春がこんな風に普通の人かのように名桜と話してくれることに甘えて、実力を見誤ってはいけない。そう戒める声がどこからともなくするようになった。一緒に仕事をしたいと思う気持ちはあるものの、本当に自分は知春と対等に作品を作り上げられるくらいに実力があるのかと問われるとはっきりと答えられない。

「…大学をはっきりと決めたのはここ半年くらいなもので、その場その場だよ、俺は。映画の話だって急に入ってきたみたいな感じだったしね。だからそんなにすごくない。すごかったら、『両想い』がわからなくて名桜のことを煩わせたりしないよ。」

 知春はにっこりと笑った。知春の笑顔は不思議だ。名桜の心の、上手く言えなかった部分を拾い上げてざわめきを止めてしまう。