* * *

「お疲れ様でした。」
「お疲れ様ー!」

 くるくる変わる彩羽の表情に合わせて、穏やかな知春の表情が変わっていく。そんな撮影風景だった。『杏』と『大和』らしい距離感を求められる部分もあったが基本は演者としての二人にクローズアップしたもので、彩羽は役柄よりも元気で、知春は静かで穏やかだった。

「ちゃんとできてた?」
「も、もちろんです!今日はお二人での撮影だったからなのか、映画を撮影していたときみたいな空気感があって…。」
「今日の衣装も良かったもんね。ペアルックって感じで可愛くて。」
「はい、とてもお似合いです。」

 名桜は頷きながら答えた。すると、彩羽はとびきりの笑顔を浮かべて、名桜の手を取った。

「あっ、そういえば言い忘れてたんだけどさ、この前はなっちゃん、撮影ありがとね。私あの時も終わったらすぐ別の現場に移動で、ちゃんとお礼言えなかったから。」
「あ、いいえ!写真、私の方でも確認しましたが大丈夫でしたか?」
「もちろん。インタビューも、なっちゃんいてくれたから気持ち楽だった!その件もあわせてありがとう。」

 握った手をブンブン振りながら、彩羽はぺこりと頭を下げた。

「ほんとはさぁ、もっと話したいんだけどいったん事務所戻らなきゃならなくて。」
「そうなんですね。わざわざお声かけくださってありがとうございます。」
「ううん。私がなっちゃんに会いたかったから、ちょこっとだけでも嬉しい!また今度、一緒に仕事しようね!」
「はいっ!よろしくお願いします。」

 名桜にひらひらと手を振って、彩羽がスタジオを後にした。それを見つめていた知春が、ゆっくりと名桜に近付いた。

「嵐みたいな人だよね、彩羽さんって。撮影中はそこまでじゃないけど。」
「知春さん!お疲れ様です。」
「うん、お疲れ様。」

 知春とこうして二人で話すのは本当に久しぶりだった。ふわりと、少し力の抜けたように微笑む知春は名桜の横に立った。